釣り師も舌を巻く伝統の和竿「涸沼竿」を撮影してきました

2020年1月12日

 水戸市那珂川に架かる水府橋を渡って那珂川の左岸側に釣りの名所「涸沼」で使われていた和竿「涸沼竿」を制作されている「東明工房」さんがあります。今日は東明工房で製作されている「涸沼竿」を拝見させていただきました。

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涸沼は釣りの名所です

 涸沼は茨城県中部の鉾田市、東茨城郡茨城町、大洗町にまたがる場所にあり、海水と淡水が混じり合う汽水湖で、満潮時には海水が逆流し、魚のえさとなるプランクトンが豊富な富栄養湖でもあります。そのため、ハゼ、ボラ、コイ、フナ、ウナギ、ワカサギ、ウグイなど60種類以上の魚が生息する釣りの名所です。
 したがって、涸沼では釣り竿も1本で大小さまざまな魚に対応できるよう、地元独特の丈夫な和竿が用いられていました。

涸沼竿の栄枯盛衰

 大正期に常磐線が開通し、涸沼に船宿ができると関東一円から多くの釣り人が訪れ、涸沼の竿は有名になりました。その後、製造が途絶えていましたが「幻の竿」と復活を望む声が高く、昭和期に川上東明氏が林東光師に師事して、「涸沼竿」として復活させました。その後、川上さんは30年以上涸沼竿の制作に携われています。

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材料にこだわる涸沼竿の制作

 材料の竹は選りすぐりの九州の竹や地元の竹を切りに行き、一本一本手作りでつくられるそうです。釣り竿一本完璧にできる竹を探すため、探すのになかなか大変な作業らしいです。

 こちらの写真で先が丸くなっている部分は竹の根っこです。深く埋まっている竹を掘り起こし取るのはこれまた大変な作業を想像できます。

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 竹は何年も天日で乾燥を繰り返し、竹の強度を強めていきます。

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 また、大子産の漆(うるし)、絹糸を使います。竿は種類に応じた竹を選別し、油抜き、修整、強度出しなどの工程を経ていきます。糸は漆により保護・補強を行います。

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伝統の涸沼竿を拝見して

 数多くの種類の魚を釣り上げるため、一本で何匹も対応できるようにと作られた「涸沼竿」。工房には、数え切れないほどの涸沼竿が吊り下げられており数の多さにびっくりしました。30年以上制作を続け来られてきた賜物だと思います。

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 奥様にお話を伺ったところ、「涸沼竿」を継がれる方は今現在いらっしゃらないとのこと。「涸沼竿」は言わば、茨城県の自然が生んだ郷土の工芸品です。この「涸沼竿」の伝統を何かの形でこれからも残していきたいものです。

撮影協力

東明工房
茨城県水戸市水府町1570-28
TEL:029-225-6835